特に2時間以上の長旅、バス旅行、車の運転などは疲れているので、入浴前は60分以上の休息が必要です。そのために宿では、部屋に茶菓子が用意されています。疲れている時、気分が高まっている時にすぐ入浴をすると、温度、水圧の刺激で体調を崩します。
皮膚の血管が拡張すると、胃腸の血管は反対に収縮します。したがって、肌が真っ赤になるまで湯に浸ると胃・腸は貧血の状態になります。すると胃液の分泌は止まり、胃・腸の運動も停止します。
このため食欲は落ち消化能力もうまく働きません。ですから、食前の入浴は短時間ですませないと、せっかくのご馳走も食べられません。しかし、冷たいビールを一杯程度飲むと、その刺激で胃・腸の働きが目覚めて食欲が出てきます。食後はゆっくり60分以上休息してから入浴をすることです。就寝前の入浴がよいでしょう。
温泉旅行とお酒は付きものです。地酒と美味しい土地の食物を味わうことは、旅の楽しみの一つです。飲酒は旅行先でも晩酌程度に留めることです。飲酒後の入浴は程よくさめてからです。ついつい飲みすぎた時は、その夜の入浴は止めて翌日にする余裕を持ちましょう。深酔いでの入浴は事故の元です。血液の循環が乱れて気分が悪くなるか、転倒して怪我をしたり、また、溺れたりします。
一回の入浴で汗が流れ出たり、動悸がするまでじっと我慢の入浴は、熱疲労の元になるので避けます。日本人の悪い入浴習慣です。全身紅潮して汗が流れるまで浸らないとからだが温まらない、ということは錯覚です。
ほんのり汗ばんだら十分にからだは温まっているわけです。ということは、体温以上にからだが熱せられると、熱が体内にこもらないように発汗するからです。人の体温調節作用です。
また、血液は熱を運ぶ役もしていますから、体の一部分が温められるとそこで温められた血液は、1分以内に体を一巡しますから、熱いお湯に短時間浸るよりも、ぬるいお湯に長く浸っているほうが、からだの芯から温まることになります。
お湯の温度によりますが、汗ばんだらいったん出浴して休息する。これを三回までとします。ぬる湯なら一回でも良いわけです。
欲張って一日に数回も温浴すると熱疲労を起こします。温泉の場合は、硫黄泉、酸性泉など刺激の強い泉質は、とくに一日1,2回までとします。車を運転する場合は、当日の温浴は短時間にします。
ヒトは生理的に早朝、深夜の血液は濃縮しています。睡眠中に約180mlの水分(コップ1杯分)が蒸発しているからです。したがってこの時間帯の入浴は、発汗によってさらに血液が濃縮して固まりやすくなるので、高齢者は脳梗塞、心筋梗塞など発症しやすいのです。この事故を防ぐために早朝・深夜の入浴は避けます。
高齢者は思いもしない事故を起こすことがあります。床で滑り骨折する、浴槽内で滑ったり、のぼせて溺れるなどです。このような事故にすぐ対応できるように、仲間とともに入浴することです。
家庭の場合は、家族の誰かが規則的に必ず声をかけることです。
入浴は心身の疲労を癒す働きがありますが、運動直後や過労の場合はしばらくの休息・睡眠の後にします。血液の循環・自律神経が平静になってから、ゆったり気分で入浴します。